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コラムコラム

人間国宝

ハンディを抱え指先の感覚だけで作陶 藤原雄2017/03/21

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備前焼は岡山県備前市の伊部地方を中心に、平安時代末期ごろから近隣の須恵器の生産を基盤として創始された陶芸です。釉薬を使わず、褐色の素地を長時間焼き締める為、焼成中の窯の中で自然にできる模様や色・肌合いが魅力なやきものです。この備前焼で重要無形文化財に指定された陶芸家は4人いますが、その中の一人である「藤原雄」は、左目は失明してまったく見えず、右目も弱視(視力0.03)であるというハンディを負っていたものの、驚くべきことに指先の感覚だけで作陶し、完璧なまでのフォルムの壺を精力的に作り出していました。


文学を志した青年時代


藤原雄は1932年、和歌山県伊里村穂浪50(現・備前市)に、備前焼の人間国宝であった父・藤原啓の長男として生まれました。中学・高校時代は新聞部や文学部の部長を務め、文学や音楽に熱中した青春時代を送りました。高校卒業後は明治大学文学部日本文学科に入学し、明大文芸の同人となり短編作品などを発表しました。

視力のハンディの為に周囲からは普通学校や東京の大学への進学も無理だといわれていましたが、そうした意見をものともせず積極的に勧めてくれたのは、藤原の一番の理解者である父・藤原啓でした。
奇しくも「文学を志し東京で出版社に就職」という道筋は、父の時と至って同じでありました。藤原自身も初めは陶芸の世界を志してはいませんでしたが、父が胃潰瘍で倒れると、父の体を案じて帰郷し、助手として備前焼の修行を始める事になりました。


「壺の雄」と呼ばれる程に


49父の助手の仕事を手伝うようになり、その合間に自分の作品も制作しましたが、初めの5年間は焼く前に全て父に壊されていたといいます。

それにもめげずに眼を閉じていても轆轤を挽けるように訓練し、新しい自己の工夫を盛り込むことよりも備前のやきものをできるだけ単純に、そしてひた向きに追及しました。
こうして指先の感覚だけで作り出される豪快さとあたたかさを併せ持つ藤原の作品は次第に国内外からも評価されるようになりました。とりわけ胴が張り、丸みを帯びた大壺は、「壺の雄」と呼ばれる程に世間に知れ渡り、備前焼の世界にも多大な影響を与えました。

又、備前焼を作る一方で、世界へ備前焼を認知させるための努力も率先して行いました。1964年にはアメリカ、カナダ、スペインなどの大学で備前焼についての講義や実技指導を積極的に行い、1976年には父・藤原啓とフランス、スイス、ベルギーで父子展を開催。備前焼の存在を世界に向けて発信し、更なる発展の為に取り組んでいきました。

現在、備前の作家は壺といえば雄スタイルの壺をこぞって作っています。このスタイルが「普通の壺の形」と思わせるほど、藤原雄という一人の備前作家の影響力は大きかったといえるでしょう。

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