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コラムコラム

刀剣・刀装品

“最上大業物”に選ばれた名刀!初代には意外なキャリアも?【長曽祢虎徹】2022/07/26

“虎徹”とは


名刀と呼ばれる刀剣には美しさはもとより、本来の用途を示す「切れ味」が求められたことは論を待ちません。
そうした刀剣の性能評価は近世においても重大な関心事であり、切断力を重視した刀工のランキングが生まれました。
そのうちよく知られるのが『懐宝剣尺(かいほうけんじゃく)』です。

この書物は刀剣鑑定で名を馳せた唐津藩士・柘植方理(つげまさよし)が、首切りや御様御用(おためしごよう)の五代・山田浅右衛門(吉睦)の協力を得て寛政九(1797)年に出版したものです。
そこでは刀剣の切れ味ごとに「最上大業物」「大業物」「良業物」「業物」と分類し、時代による改稿や銘の数え方によって数は前後しますが、最初期には最上大業物として十二あるいは十三の刀匠が挙げられています。

その一つが「虎徹」で、初代・長曽祢興里(ながそねおきさと)と二代・興正(おきまさ)がランクインしています。
本稿では、この二代にわたる虎徹について概観してみましょう。


初代虎徹・長曽祢興里と二代虎徹・長曽祢興正


初代の虎徹である長曽祢興里は17世紀の近江あるいは越前の人とされ、そのキャリアのほとんどは刀工ではなく甲冑師でした。
江戸に出て刀を打つようになったのは50歳頃のことだったといいますが、その後20年程で200振以上の名刀を生み出しました。
「虎徹」は僧としての法名であり、故に「入道虎徹」といった銘の切り方もあります。
他にも「古徹」「乕徹」などとも表記し、後者は「乕」の字から「はことら」と呼ばれることもあります。
確実な例としては一振のみですが、「古鉄」の銘を用いた脇差も有名です。

甲冑師としての技術をベースにもち、巧みな鉄の鍛え方と刀身彫刻でも知られる刀工ですが、何よりも圧倒的な切れ味がいくつもの伝説となっています。
松の枝を切断したところそばにあった石灯籠まで斬り込んだという「石灯籠切」や、“三ツ胴”の金象嵌銘のある「坤皆断(こんかいだん)」などがよく知られるところでしょう。
当時は刀の切れ味を検証するため罪人の遺体などを用いることがよくあり、三ツ胴とは三体を重ねて切断したことを意味します。

こうしたある種の実績が刀の茎(なかご)に象嵌されたり刻まれたりすることがあり、これを「截断銘(せつだんめい)」と呼びます。
虎徹の作にはこのような切断能力の証明ともいえる銘がしばしば切られていますが、一方では乕徹に特徴的な高難度の「数珠刃」風刃文や、よく冴えた地鉄の景色なども優れた技量を示しています。

同様に、先述の『懐宝剣尺』では、二代目の虎徹である長曽祢興正も最上大業物としてランクインしています。
興正は初代虎徹の実子とも養子ともいわれ正確なところは不明ですが、興里が甲冑師であった頃からの門人ともされています。
興正も師と共に最上大業物に列せられるほどの名工であり、その作風は初代によく似たものでした。
刀剣は反りが浅く、地鉄は板目肌となり、刃文は数珠刃風互の目乱れ、広直刃などを焼き、砂流しがかかる。
銘は「長曽祢虎徹興正」「長曽祢興正」「長曽祢虎徹二代目興正」などが知られますが、そもそも「虎徹」を名乗っての作が少ないことから「二代目虎徹」と呼ばれることは一般的ではありません。
また初代が用いた「乕徹」を使うことはなく、そうしたことから通常「虎徹」といえば初代の興里のことを指すものとされています。


贋作の多さでも有名な虎徹


非常に高く評価されている虎徹の刀ですが、一方ではその偽物が多く作られたことでも知られています。
「虎徹を見たら贋作と思え」と例えられるほど、真作よりも多くの模倣品が世に出回ったとされています。
知名度が高いこと、そして銘の切り方がシンプルであったことなどがその理由として考えられていますが、新撰組局長の近藤勇が虎徹贋作を愛用したとされるのは有名な説です。

贋作と考えられる理由には諸説ありますが、新撰組結成から間もない近藤の手紙に自身の刀が虎徹である旨が記されています。しかし当時の近藤らの経済状況で入手できるブランドとは言い難く、真作とは考えにくいというのが通説です。
それでも文字通り刀に命を預ける任務において、「虎徹」の名に願いを託したことが想像されます。
ともあれ、虎徹は多くの剣士にとって憧れの一振であり続けたといえるでしょう。

〈主要参考文献〉

『別冊歴史読本 歴史図鑑シリーズ 日本名刀大図鑑』本間 順治監修・佐藤 寒山編著・加島 進協力 新人物往来社 1996
『歴史群像シリーズ【決定版】図説 日本刀大全Ⅱ 名刀・拵・刀装具総覧』歴史群像編集部編  学習研究社 2007

〈主要参考サイト〉
尾道正家


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