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骨董

貝殻から国宝も生み出された?日本で発展を遂げた漆細工の歴史とは【螺鈿】2022/10/17

正倉院にも収められた漆工芸技術の粋


螺鈿(らでん)は、漆工芸における貝殻を用いた装飾技法の一つです。
その名称はかなり古く、天平勝宝8(756)年の『東大寺献物帳』に最古の用例が確認されます。
日本においては他に、貝摺(かいすり)や青貝なども呼ばれ、夜光貝(やこうがい)や鮑貝(あわびがい)、蝶貝(ちょうがい)などの殻を用いてきました。
貝殻は模様の形に切って薄板状に加工。その後、木地や漆地に貼り付け(また嵌め込んで)、研ぎ出します。
螺鈿技術は、奈良時代になって唐から日本に伝来しました。正倉院宝物には螺鈿技術をあしらった品々が収められ、現代に伝わっています。

また、螺鈿技術と一口に言っても、その技法は様々です。
貝板に文様を表現する技法と、貝板を木地(漆地)に接着する技法についてそれぞれ見ていきましょう。

まずは文様を浮かび上がらせる方法は次の三つがあります。
一つ目が切り抜き法です。同法は貝(特に厚貝が望ましい)を糸鋸で挽いてから、ヤスリ(砥石)で磨き上げていきます。
次が打ち抜き法。工具の鏨(たがね)で貝板(薄貝)を撃ち抜く方法です。
最後が腐食法と言います。薄貝の漆文様を塩酸を付けた刷毛(はけ)で撫でて腐食させ、漆を剥ぎ取ります。

次に貝板を木地(漆地)に貼り付ける(嵌め込む)方法です。こちらも方法は三つあるのでご紹介します。

最初が嵌入法(かんにゅうほう)です。掘り込んだ木地へ貝板を嵌め込んでいきます。
二つ目が付着法です。これは貝板を貼った木地の周りを漆で塗り埋めていきます。そこから研ぎ出していく方法です。
三つ目が押し込み法。木地に厚めの漆を塗り、貝板を押し込みます。

螺鈿の技法と言っても、文様と接着方法では多くの技法が用いられているのがわかりますね。

螺鈿の歴史~発祥と伝来、日本での独自の発展を遂げる~


螺鈿の起源については、まだ明らかにはされていません。
少なくとも古代エジプトの初期(紀元前3500年ごろ)には、装身具に貝殻を加工した技術が確認されています。
加工技術が地中海沿岸に伝来し、少しずつ発展して諸国に波及していったようです。

東洋では古代王朝・殷代(紀元前1700年~紀元前1046年)に確認されたとも言われてきました。しかし現在では、ササン朝ペルシアなどの西方の国々から、シルクロードを経て唐(西暦618~907年)に流入したことが確実とされています。

螺鈿技術と日本との出会いは、そこからほどなくのことでした。
奈良時代、日本は唐に遣唐使を派遣。持ち帰った中に螺鈿技術をあしらった品々がありました。
このとき「螺鈿紫檀五弦琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」などは日本に伝来。のちに正倉院宝物の中に収められています。
正倉院宝物は、聖武天皇・光明皇后ゆかりの品々で構成されていました。螺鈿技術をあしらった品々がどれほど重宝されていたかを物語ります。

その後、螺鈿技術は日本において独自の進化を遂げていきました。
平安時代には唐風の木地螺鈿から漆地螺鈿へと主流が転換。当時は藤原道長の時代であり、国風文化の影響が多分にあったと考えられます。螺鈿技術は貴族の室内調度品(家具)にも使用され、硯箱や唐櫃などにも施されていきました。
鎌倉時代には、日本の螺鈿技術はさらに発展。平面だけでなく、不整形の局面にも絵画的な文様を施すことが可能となりました。室町時代には一時期低迷しますが、明国から薄貝を用いた技術が伝来。のちに蒔絵と併用して使われます。
桃山時代に入ると李氏朝鮮から割貝法や青貝法が伝わり、茶人・織田有楽斎(おだうらくさい:信長の弟)が考案した明月椀にも応用されました。

螺鈿技術が最も花開いたのが江戸時代でした。
尾形光琳は鮑の厚貝を用いて独特の表現を追求。杣田光正は薄貝でモザイク文様を表すことに成功しています。
芝山仙蔵はより細密な螺鈿技術に挑戦。彫刻した貝を嵌め込んだ作品を完成させました。

現代の螺鈿職人たち


螺鈿の発展は現代においても続いています。代表的な作家について取り上げていきます。

最初に取り上げるのが、北村昭斎(きたむらしょうさい)氏です。昭斎氏は「螺鈿」の重要無形文化財保持者(人間国宝)であり、さらに「漆工品修理」の選定保存技術保持者の認定を受けた人物です。
北村家は代々続く漆芸作家の家でした。昭斎氏は父・大通(だいつう)氏の後を受けて、奈良国立博物館において文化財の保存修理を担当。多くの復元模造品を世に送り出しました。

二人目は樽井禧酔(たるいきすい)氏です。禧酔氏は、春日大社の大塗師職預を務める人物です。
禧酔氏は父・直之氏に師事。28歳で唐招提寺の講堂に塗師として関わり始めました。
以来、世界遺産である薬師寺大講堂や興福寺中金堂の再建に尽力。神社仏閣における修復活動に貢献しました。

螺鈿技術が施された品物は、非常に多岐にわたっています。実際に列挙してみると、日常生活の中に溶け込んでいるのがわかります。
茶道具(茶器・棗・香合・菓子器)、食器類(盆・碗・皿・重箱など)、楽器類(三味線・琴など)、家具類(テーブル・机・箪笥など)、装飾品(帯・帯留・簪など)があります。身の回りで探してみると面白いかも知れません。


主要な参考文献

 辻惟雄『日本美術史』 美術出版社 2009年

 荒川裕和『螺鈿』 同胞舎出版 1985年

 河田貞 『日本の美術211 螺鈿』 至文堂 1983年


主要な参考サイト

 「螺鈿買取」株式会社ますけんHP

 「北村昭斎」奈良国立博物館HP

 「漆が木に命を吹き込む」ハリマ化成グループHP

 「螺鈿」文化遺産HP
 
 「螺鈿」コトバンクHP


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